謙虚に咲く赤 #ミニバラ

世界で1番メジャーな花と言えば「バラ」で異論ないであろう。北半球の温帯地域に多く分布するバラは、長年多くの園芸家たちに愛され、今ではこの極東の島でも当たり前のように育てられている。

かくいうわたしも、バラに憧れを持つひとりである。家の玄関にオールドローズをアーチに仕立て、開放的な庭に大輪のバラを咲かせる日を夢見ている。休日はバラの手入れに精を出し、そんなわたしを窓辺で読書する妻が、たまに眺めているのである。そしてバラとわたしをセットで愛でているのである。もちろん夢だ

ミニバラを愛でるDNA

わたしは独身だし、賃貸アパートに暮らしているので、バラの地植えはできない。プランターで育てようにも、ベランダは狭く他の植物たちとの雑魚寝状態なので、開放的な空間に大輪の薔薇の花というのはとうてい期待できない。

しかし、バラを育て咲かせたい、美しく刺のある薔薇を愛でたい。きっと、世界中にわたしのような立場に置かれた者達がいるであろう。そんな欲求を満たしてくれるのが、このミニバラである。

小さい島国で、かつ山地の多い日本では、古くより住宅事情に悩まされてきた。「狭きを楽しむ」という姿勢は、長屋や坪庭のような生活空間と植物の関係を見れば明らかである。つまり、われわれ日本人にはミニバラを愛でる遺伝子が組込まれているのである。

バラは女性に例えられることもあり扱いにくい植物というイメージがあった。しかし育ててみると、意外にも手がかからない奴が多い。特にミニバラは、冬以外の季節は次々と芽を出し蕾を付ける。梅雨時期の湿気と、夏の暑さに疲れた様子をみせることもあるが、風通しの良い場所に置けば難しくないのである。わたしも3年連続で花を咲かせるのに成功している。

赤いミニバラ

そして、わたしのベランダで今シーズン最初のミニバラの花が咲いた。このミニバラの苗は、花が落ち商品として売り物にならなくなったので安売りされていたものである。いわゆるアウトレット商品である。何色の花が咲くのか楽しみにしていたところ、赤いバラだった。

明るく爽やかな赤。大輪のバラのように、深さのある赤ではないが、この謙虚さがたまらなくかわいい奴ではないか。真紅のバラはどこか気障でイヤらしい感じがする。デートの小道具として使うには良いかもしれないが、一緒に暮らしていくとなると、どうもしっくりこない。ここは隠れ家的なフレンチレストランではないし、ホテルの最上階のバーでもない。独身男のアパートのベランダなのだ。

この赤く小さなバラの花が、ラッピングされたり、リボンで飾られたり、女性に贈られることはない。その点において、少々申し訳ない気持ちもあるが、もともとはアウトレット品だったのである。今はその生命の充実を噛みしめているだろう、と思い込みたい。

2015,7 梅雨 くもり